最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)437号 判決 1963年12月06日
主文
原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人大高三千助、同露木滋の上告理由第一、二点について。
商法二六五条が、取締役が自己又は第三者のためにその会社と取引をなすには取締役会の承認を要する旨規定するのは、会社と取締役個人との間の利害衝突から会社の利益を保護することをその目的とするものであるところ、取締役がその会社に対し無利息、無担保で金員を貸付ける行為は、特段の事情のない限り会社の利益にこそなれ不利益であるとはいえないから、取締役会の承認を要しないものと解するのを相当とする。
本件において、原判決は、第一審判決理由を引用して、上告人が被上告人に対し原判示の(一)ないし(七)の金員を弁済期は貸付の日から一ケ月以内とする定めで貸付けたこと、右(五)ないし(七)の消費貸借は上告人が被上告会社の取締役に在任中になされたことを確定した上、右消費貸借は被上告会社の取締役会の承諾をえた形跡が認められないから商法二六五条の規定に違反して無効である旨判断している。しかし、もし右消費貸借がいずれも無利息、無担保の約定であるならば、前述のとおり被上告会社の取締役会の承認を要しないものというべきところ、上告人が原審に於て右趣旨の主張をしているに拘らず右約定の有無について何ら判示することなくして、直ちに右消費貸借は被上告会社の取締役会の承諾をえていないから無効であるとした原判決は、所論のとおり商法二六五条の解釈適用を誤つたものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、前記(五)ないし(七)の各消費貸借につき無利息、無担保の約定の有無についてさらに審理せしめるため本件を原裁判所に差戻すのを相当と認め、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)